懐かシネマ劇場第1回
バグダッドの盗賊
THE THIEF OF BAGDAD
1940年
カラー作品アレクサンダー・コルダ製作マイケル・パウエル/ティム・フェーラン/ルドウィヒ・ベルガー監督
音楽:ミクロス・ローザ出演:サブー、ジョン・ジャスティン、ジューン・デュプレ、
コンラート・ファイト
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夢と冒険に溢れた美しいファンタジー映画で、記憶に新しいディズニーアニメ「アラジン」の元ネタとも言うべき作品です。
同じタイトルの映画は何本もあり、この作品自体も1924年のモノクロ無声映画のカラーによるリメイクなのです。
なお、ビデオソフトとしては、1978年のクライブ・ドナー監督版(ロディ・マクドゥエル主演)がレンタル屋さんに出回ってるけど、みなさん、その78年版は間違ってレンタルしちゃったらガッカリですよ!製作年度はずっと新しいのに、すべてのに面おいて、この1940年版より劣るからです。
‘78年版よりかはまだ24年版の「バグダッドの盗賊」のほうが見る価値あります。'
'24年版は白黒の無声映画であるにもかかわらず、主演俳優ダグラス・フェアバンクスのアクロバティックなチャンバラ(?)で楽しめるからです(ただしランプの大男ジニーは出てきません、空飛ぶ絨毯こそ出てきますが)。
他にもイタリアで1960年代に作られた「バグダッドの盗賊」もありますが、これは僕も未見です。(無理難題を克服した花婿候補がお姫さまと結婚できるという,日本の「かぐや姫」を下敷きにしたストーリーで、低予算B級映画専門スタアのスティーブ・リーブス主演、ランプの大男ジニーは出てこないらしく、、なんだかあまり期待できません)。
やはり「バグダッドの盗賊」と名のつく映画は、この1940年のアレキサンダー・コルダ製作版こそが決定版でしょう!。
音楽、美術、色彩、スケール感、配役のはまり具合、すべての面で最高です。
でも、その割に知ってる人、少ないんですよね、この映画・・・なんででしょう?。
答えは簡単、この映画がアメリカやイギリス本国で上映されてたころ、日本は太平洋戦争突入直前、“鬼畜米英”の真っ只中だったからなのです。
日本でやっとこの映画が公開されたのは欧米での公開から11年もたった昭和26年(1951年)というタイミングの悪さ。
加えて、当時の日本の洋画ファンに人気のあるスター俳優がひとりも出ていなかったのだから、忘れられた作品となってしまうのも無理ありません。
(正確には昭和27年度のお正月映画として、26年の12月下旬に公開されました。当然、後にゴジラを生み出す円谷英二さんや、東映動画「シンドバッドの冒険」(昭和37年)に関わる手塚治虫さんら、日本の特撮マンやアニメ作家にも大きな影響を与えたのは確実です。)
日本における知名度こそ低くとも、この作品自体は「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」(ともに1939年製作)と並ぶ超大作映画だったと推測できます。
事実、洋書の映画史を扱った出版物には必ず大きく扱われているし、洋書のSF・ファンタジー映画を扱った書籍でもビッグネームで、アラビアンナイト物の古典かつ最高傑作と位置づけされてます。
第二次世界大戦の真っ只中の1938年に撮影開始、途中で3人も監督が交代したり、撮影中のイギリスのスタジオが空襲にあって途中からハリウッドへ移って製作され、3年もかかったため、主役の盗賊少年アブーの顔の幼さかげんが場面によって微妙にちがいます。
びっくりするのは、魔法のランプ(というより瓶)から現れる大男ジニーの手や足の実物大造形物の半端じゃない巨大さ・・・ジニーの手の親指だけで主人公の盗賊少年アブーの背丈よりも大きいのです(しかも動く!)。
奈良の大仏さんもビックリの(つま先からかかとまでで7〜8m)ジニーの足がアブーを踏み潰そうとするシーンなどは、まさしくセンスオブワンダーです!
バグダッドのお城や都の街並み、港や街を行き来する多彩な民族衣装をまとった人々、京マチ子似のお姫様のいる隣国バスラのセットも、CGなんかじゃなく実物大の巨大なセットを実際に建造して撮影してます。、
さらに実物大セットの遠景を巧みな作画合成・ミニチュア合成で奥行きを出してます。
少年アブーが世界の頂上にあるという“千里眼”を求めて身長50メートルはありそうな超巨大なジニーの背中に乗って飛んでいくところがこの映画の最大の見所です。
雲を突き抜ける高い山の頂上の”暁の寺”の中、全身緑色の“天上人”たちに護られている“光明大仏”の額に、その“千里眼”があるのですが、この光明大仏(DVD版では“光の神”とか、単に”女神”と訳されてる)が、奈良の大仏さんと千手観音さんを足して割ったような神々しいお姿で、崇高感あります!
中東から東洋、美術的な荘厳さは圧巻で、神秘的な画面に吸い込まれてしまいます(この作品は第13回アカデミー賞の美術賞、特撮賞他受賞)。
ストーリーは、すばしっこい盗賊少年アブーと、悪大臣に国を乗っ取られた頼りない美青年アーマド王の友情を軸に、隣国の美しいお姫さまとアーマド王との恋愛をからめて展開します。
そして、アラビアンナイトの必須アイテムである”魔法の絨毯”はじめ、組立式の”空飛ぶ白馬”、6本腕の”銀の召使い”、大仏の胎内に巣食う巨大蜘蛛といったファンタジックなキャラクターが次から次へと登場し、見る者を幻想の世界へと誘う大冒険活劇となっています。
アブーを演じるインド系少年俳優サブーが盗賊ながら友情に厚い純粋な心を持った少年を好演(撮影時14歳から16歳)、大仏の頭にのぼったり、巨大蜘蛛の巣での空中戦など危険なアクションシーンも、たぶん本人がやっています(この作品で人気者となったサブーは1942年「ジャングル・ブック」の初映画化作品にも主演)。
彼を主役にしたことが、この冒険活劇を成功に導いたと言えます。
この映画を見てる人みんなが、かつて“少年”であった自分を投影することができるからです。
また、「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」がそうであったように、初期のカラーフィルム特有の、まるで絵画のような色合い。
くすんだような僅かに滲んだ色のトーンが、この魔法の絵物語にマッチして幻想性を高めています。
それはハリーハウゼンの「シンドバッド七回目の航海」(1958)など1950年代以降のカラー映画でさえ失われてしまった、今はもう再現できない(?)魅力なのです。
この作品の3人の監督のひとり、マイケル・パウエルは見事な色彩設計で、この「バグダッド〜」の後にも「天国への階段」(1946)、「黒水仙」(1947)「赤い靴」(1948)などの優れた色彩映画を発表し”色彩映画の巨匠”と呼ばれることになります。
さらに注目してほしいのは、後にヒッチコックの「白い恐怖」や史劇大作「ベン・ハー」でアカデミー賞を取ることになるミクロス・ローザによる音楽。
この「バグダッドの盗賊」でもオープニングのファンファーレなど、どこかベンハーに通じる勇壮な雰囲気です。
そして、いかにもクラシカルなハリウッド映画(イギリス映画だけど)という感じの、優美なオーケストラ演奏が、若い王様とお姫様の恋を、甘くやるせなく、ノスタルジックに奏でています。
加えて劇中に“歌”が多く、サブー少年も歌ってて、ちょっとだけミュージカル映画の要素もあります。
それと、僕がこの映画にこだわるひとつの理由・・・それは、この映画に登場する巨人ジニーに、なにかしら心の奥底にあるものをグっ掴まれたような不思議な感覚があるからです。。
それは、ひょっとするとエディプスコンプレックスと呼ばれるものかもしれません。
自分を守ってくれる絶対的な存在・・・・それを具現化した象徴としての”巨人”。
それと同じ意味で、父性を求めるゲイの人はみんな、お釈迦様の手のひらの孫悟空になりたい、というような隠れた願望が意識下にあるんじゃないでしょうか?
僕の個人的見解では、巨大な力に守られたいという、潜在願望がファザコン心理の根底にあるような気がします?。
この映画には、そういった深層心理を呼び覚ます魔法めいた快感があるのです。
魔力を秘めた映画「バグダッドの盗賊」1940年版をぜひ、みなさんもレンタル店で探して、あるいはDVDを買って、見てください。(日本語字幕はVHSビデオ版が一番センスいいです。)
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