懐かシネマ劇場
スタア銀幕エッセイ 
      ギターを持った”若大将”?


最近知ったことなんですが、加山雄三さんは小林旭さんより、ひとつ年上なんだそうです(それぞれ生まれは昭和12年、13年)。

それは僕ら昭和30年代中期生まれの“怪獣世代(子供のころに怪獣ブームを体験した世代)”にとって、ちょっと不思議な感覚なのです。

というのは、加山さんが大学生を演じてた「若大将」は子供のころから映画館(たいてい怪獣映画との併映)でリアルタイム体験してたのに対し、“渡り鳥”はその時点ですでに終わってたので記憶になかったからです。

二十歳そこそこで過去のある男を演じてたアキラさんと、30歳を過ぎても大学生を演じ続けた加山さんの、役柄上の年齢的逆転は、渡り鳥が短命だったのに、若大将が長くつづいたことに起因しており、それが成長期の子供にとっての”タイムパラドックス”となってしまったのです。

 それにしても、昔の若者は大人っぽいですね。
宝田明さんがサルベージ会社所長を演じた昭和29年「ゴジラ」の脚本では27歳の設定(当初は32歳の設定で、平田昭彦さん演じる芹沢博士と同じ年という設定から変更された)なのに、実際の宝田さんは20歳(昭和9年4月生まれ)でした。

渡り鳥シリーズの主人公、滝伸次は元刑事という設定で、追い詰めた犯人をやぬなく射殺してしまった事から、流しのギター弾きになった経緯が劇中で語られてます。

敏腕刑事としてならした時期が何年かある設定なので、少なくとも20代後半と考えるのが妥当だと思うんだけど、演じる旭さんは撮影時はまだ20歳という、驚くほどの若さ、そして大人っぽさです。

渡り鳥第1作当時、宍戸錠さん(昭和8年生まれ)は25か26歳、浅丘ルリ子さんは19歳、みんな若いけど、今の若者に比べると思いっきり大人びてます。


  「東から来た男」    (’61東宝)
  井上梅次監督
   加山雄三主演

また21歳の若さで夭折した“トニー”こと赤木圭一郎さんの「不敵に笑う男」は3年間の務所暮らしを終えてシャバに出てくるところからはじまるので、トニーの実年齢だと刑務所ではなく少年院ということになってしまいます(映画の中では語られないけど年齢設定は27歳だとDVDのコメンタリーで知りました)。

当時20歳か21歳のトニーが、27歳の“過去ある男”を演じても説得力があるのは、当時、スターは大人っぽいことが、カッコよさの基準だったからかもしれません、少年ぽさが重要視される今のアイドルとは逆ですね。

もちろん昭和29年の黒澤映画「七人の侍」の木村功さんのように、30歳で17歳の若侍“勝四郎”を演じたように、例外もあるにはあるのですが、だいたい昭和20年代や30年代当時の人々は、今の人より5歳から10歳は老けて見えます。

 それはさておき、加山雄三さんが“流れ者のギター弾き”を演じた、加山版“ギターを持った渡り鳥”があること、ご存知でしょうか?

僕も数年前にそのことを知って、とても興味を持ちました。
それは昭和36年の東宝映画「東から来た男」(井上梅次監督)という作品で、加山さんのデビュー間もない頃です。

一見、東宝が日活のヒットシリーズを真似た便乗作品かな?って思うでしょ?
実はそれが違うのです。

もともと「ギターを持った渡り鳥」は小林旭さんではなく、石原裕次郎さんの主演作として井上梅次(うめつぐ)監督が原案を考えていた企画だったのです。

ところが、井上監督が日活から東宝へ移籍したことで、この企画は小林旭主演作として山崎巌さんや原健三郎さんらにバトンが渡され、大幅に脚色されて、斉藤武市監督作として世に出ます。

「ギターを持った〜」のクレジットには名がないけど、おおまかな設定やストーリーも井上監督が“裕ちゃん”のために温めていたもので、それを裕ちゃんのかわりに、東宝の有望な新人スター”雄ちゃん”で、やっと具体化したってわけです。

だから、世に出るのが逆になったけど「東から来た男」は「渡り鳥」の“原型”と捉えるべき作品なのです。

つい最近、この「東から来た男」をCS放送(スカパー)で見ることができました。
当然、日活版・渡り鳥シリーズとの類似点はあまりに多く、加山さんが歌う主題歌も哀愁があり、夕焼け空に似合いそうで、後の明るい加山サウンドとは雰囲気がちがいます。

しかし、日活版と東宝版の決定的な違いがあります。それは東宝版では主人公が“拳銃を所持していない”点です。

東宝版では主人公は銃を使わず、ボクシングで敵と戦います(元ボクサーの設定、それも最後の最後まで封印してて、前半はチンピラ軍団にボコボコにされても決して手を出さない)。

日活版の宍戸錠さんにあたるライバル役は佐藤允さんで、敵対しながらも主人公に不思議な友情を感じているのは日活・渡り鳥と同じ感覚でうれしくなります。

主人公に恋ごころを持つことになるヒロインは当時17歳の星由里子さん、そして日活版でも主人公を慕う少年を演じてた島津雅彦くん(当時)がこの東宝版でも主人公を慕う少年を演じてます。

この「東から来た男」は、よく出来た映画で、現実性という点ではアキラ渡り鳥よりずっと“ありえる世界”です。
日活映画に対してよく使われる「無国籍映画」という言葉も、この東宝版ではそれほどあてはまらず、荒唐無稽度は比較的低いです。

ヒーロー、ヒロインの心情もよく表現されてて、ラストシーンもジンとします。

ただ、残念なことは、小林旭版渡り鳥に比べて、この加山版渡り鳥が物足りなく感じるのは“地方色”がないことです。

東京から西へ離れた中部地区の架空の町という設定なのだけど、地方ロケはなくスタジオ内のオールセットで撮影されてるため、日活版渡り鳥にあるような、地方ロケならでは風光明媚な風景がかもし出す抒情性が感じられないのです。

東宝版(加山版)渡り鳥はこの1本のみでシリーズされることもなく、加山さんは直後“若大将”シリーズに突入します(第1作「大学の若大将」は同じ昭和36年)。

では、結局、もともとのアイデアだった裕次郎版の“渡り鳥”は実現しなかった・・・・・のでしょうか? 

日活映画に詳しい方や裕次郎ファンの人ならもうおわかりですね、そう、「赤いハンカチ」(昭和39年、舛田利雄監督)です。

この映画は射撃の名手だった主人公が過剰防衛で容疑者を射殺してしまい刑事を辞職して、流しのギター弾きなる過程を丁寧に描いた「ギターを持った渡り鳥」の“前日譚”という趣です。

この「赤いハンカチ」の舞台の中心は横浜で、地方色が魅力だったアキラ版・渡り鳥とはちがう都会のムードがある作品でした。

   「赤いハンカチ」
(’64、日活)
舛田利雄監督
石原裕次郎主演

加山さんの歌う「君といつまでも」がラジオから流れてくるのがうれしかった子供の頃、同時期に旭さんや裕次郎さんも活躍してたはずなのに、日活の映画館にはあまり馴染みはなかった。
そのせいで日活映画はリアルタイムでなく、少し遅れて過去の作品としてテレビやビデオで見た印象が強いのです。

子供にとっては“ゴジラ”という大スターを有する東宝がやはり馴染みの映画会社だったので、若大将は身近な存在だったのです。

でも、ゴジラ好きだった僕らより、ちょっと年上のおにいさんたちは、渡り鳥シリーズや、裕次郎のムードアクションが青春だったのでしょう。

流しのギター弾きという職業が成立したのは、せいぜい昭和40年代、僕らが大人になって夜の歓楽街に出入りするようになるころには、すでにカラオケ時代になってました。
不便だけど、今はない何かがあった時代。

あの時代の雰囲気を追体験する、というのは僕には特別な意味があるのです。
以前は単に個人的なレトロ趣味だと思ってたのですが、それに加えてその時代に青春をおくった人と同じ思いを感じたい・・・という感情が根底にあることが、最近になって自覚するようになりました。

僕の学生生活は、子供の頃に見た“若大将”の世界とは大違いだったけど、映画の中だけは別の人生を擬似体験できるからいいですね。。

水野晴郎さんじゃないけど、映画って、本当にいいもんですね。



’06.9.27記
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本家(?)        
「ギターを持った渡り鳥」
(’59、日活)
斉藤武市監督

小林旭、浅丘ルリ子