懐かし歌謡劇場・アルバム編    僕の愛聴盤 
大貫妙子「ピュア・アコースティック」1987

'87年(昭和62年)7曲入りアルバムとしてミディレーベルより限定発売

'93年、既発曲3曲追加し10曲入「ピュアアコースティック・プラス」
としてディアハートより一般発売

'96年,ライブ録音4曲追加、11曲入りアルバムとして東芝EMIより一般発売

収録曲
(1)雨の夜明け
(2)黒のクレール (3)横顔
(4)新しいシャツ (5)Siena(シエナ)
(6)Rain Dance
(7)突然の贈りもの

96年の再発売時に以下4曲追加収録

(8)ひとり暮らしの妖精たち
(9)彼と彼女のソネット
(10)若き日の望楼 (11)風の道
涼しげな、せつない歌声で、浮遊感のある不思議なメロディを歌う個性的なアーティスト、大貫妙子さん。
 今回は知る人ぞ知る彼女の代表的アルバムを紹介します。

このHPを見てくださってる人の中でも、知らない人は全然知らない存在だろうと思われる妙子さん、ユーミンやみゆきさんと同じようにオリジナルアルバムを紹介するより、まずは彼女のことを知ってもらうことが大事だと思って、あえてベスト盤的なアルバムを選びました。
 
この「ピュア・アコースティック」は過去の自作曲をアレンジを変えて歌いなおした、いわゆる”リメイク”セルフカバーアルバムですが、同時にサントリーホールで収録されたライブアルバムでもあります。
ただ、ライブ盤としては不思議な事に、お客さんの拍手は入ってないし、ライブ録音特有の声や演奏の乱れも全然ないし、MC(トーク)もありません。
したがって、ライブ盤とは考えないほうがいいようです。

1987年当初は、このアルバムは通信販売とコンサート会場での直接販売のみで、レコード屋さんでは買えないCDだったのです。

その初回盤はたったの7曲しか収録されてなかったけれど、生まれ変わった過去の名曲に深い感動と満足感がありました。

リメイク・セルフカヴァー盤はいろんなアーティストが出しているけれど、オリジナルより良くなったためしはないです(この場合の”オリジナル”とは最初に発表されたバージョンのこと)。
その中では、この「ピュアアコースティック」は珍しく成功した稀なケースだと思います。

まず、サウンドコンセプトが統一されてることが成功の一番の理由。
オリジナルで使われた電子楽器もドラムスもいっさい使わず、弦楽器と吹奏楽器とピアノによるクラシック音楽のような演奏スタイルに挑戦したことが”吉”と出ました。
もともとクラシックの香りのあった彼女の曲には、このスタイルがピタっとハマりました。

チェロは溝口肇(TVのミニ番組「世界の車窓から」のテーマ曲で有名)ヴァイオリンの中西俊博、サックスの清水靖晃、そしてその後もター坊との重要なパートナーとなるピアノのフェビアン・レザ・パネ、等々、それぞれが1枚看板の一流ミュージシャンによる演奏も、贅沢このうえないです。

生楽器によるシンプルなクラシックスタイル(ちょっぴりJAZZY)で大貫妙子の胸キュンな切ない世界や、ロマンティックで優雅な世界が満喫でき、歌に新しい息吹が吹き込まれています。

もちろん、すべての曲がオリジナルより良くなっているかといえば、そうでもないのですが、アルバムとしての統一感があり、透明感の増した新しい大貫妙子ワールドへと誘ってくれます。

「黒のクレール」は繊細さは増したものの、オリジナルバージョン(坂本龍一編曲)にあった幻想的な雰囲気は薄らいでいるので、オリジナルバージョンのほうがいいと思うのですが、少なくとも「横顔」「新しいシャツ」「シエナ」「突然の贈り物」の4曲は、オリジナル以上の仕上がりだと思います。

それはアレンジがシンプルになったことと、ター坊の歌の表現力がアップしたことによる成果です。

「横顔」は唯一のリズミカルな曲で、レザ・パネさんの軽やかなピアノをバックに片想いの楽しさ(?)を歌ってて、そのライトな感覚がオトナっぽくて気持ちいい。

「新しいシャツ」は恋が終わるときの微妙な心の揺れが切なく、心が”女”な人にはたまらないでしょう、胸キュン・ナンバーのベスト1。

「シエナ(Siena)」はイタリアの地方都市へ馬車に揺られて旅する雰囲気が情景たっぷりに歌われており、彼女のヨーロピアンロマン最高傑作、清水靖晃さんのテナーサックスがクラリネットのような柔らかな音色で、しみじみと余韻を残します。

この「シエナ」は次回アルバム『プリッシマ』で発表された「カヴァリエレ・セレヴェンテ(Cavalier Servénte )」と姉妹編という感じ。
その「カヴァリエレ~」のほうは水の都ベニスを舞台にしてて、映像的にはより鮮明だけど、まだ見ぬ風景に想像力をかきたてられる、という意味で「シエナ」のほうがよりロマンティックに感じられます(あくまで個人的な意見)。

「シエナ」「カバリエレ~」ともども、さしずめ"現代の蘇州夜曲"とも言えそうな異国ロマンあふれる優雅さで、舞台を中国からヨーロッパへ移し変えたような感じです。


「突然の贈り物」は「新しいシャツ」と並ぶコンサート定番ナンバーだけど、失恋ソングではなく、失った恋が時を経て再び蘇る予感を歌った”癒し系”の歌です。
オリジナルはもっとフラットな感じだったけど、ター坊の歌唱力UPで、言葉の意味もより深く伝わってきます。

このアルバム唯一の新曲「Rain Dance」は、ター坊は詩のみでバイオリンの中西俊博が作曲を担当。
でも曲調はまさに”ター坊節”で、中西さんのバイオリンの聴かせどころもたっぷり用意されてます。
詩もメロディーもキュンとなるくらい切ないこの曲が、アルバム全体のアクセントになってて、次の「突然の贈り物」の”穏やかさ”が引き立つように感じられるので、絶妙な曲順、構成です。


'88年発表の
「プリッシマ」

               
そもそも、この「ピュアアコースティック」は翌年発表されるオリジナルアルバム「プリッシマ」と同じサウンドコンセプトで作られた”前座”的な位置づけのアルバムでした。
それは”売る”ことより一部のコアなファンに向けてのサービスとして作られたものです。

それが評判が評判を呼び、6年後に既発表曲「カイエ」「ソーントゥリーの歌」「アフリカ動物パズルエンディングテーマ」で”底上げ”した「ピュアアコースティック・プラス」という増補版CDが一般のレコード屋さんの店頭に出ます。
その「~プラス」も廃盤となり、大貫さんが移籍した先の東芝EMIから96年に、今度はアートスフィアでの’94年のアコースティックコンサートのライブ録音4曲を追加し(「~プラス」での追加曲は削除)、11曲入りアルバムとして再発売されます。
(つまり「ピュアアコースティック」は3種類あるわけです)
ター坊の声自体に7年の時間差は感じないものの、4曲プラスしたことで全体の統一感は薄らいでしまいました。
でも、それは最初から11曲入アルバムとして聴く人にはあまり関係ないかもしれません。

87年の初版を聴き慣れた耳で96年の”増補版”を聴いてみると、やはりもともとの7曲目までは流れが良く、追加された4曲の部分はやや平坦な印象です。

追加された4曲(特に「若き日の望楼」)もそれぞれにいい曲だけど、なんだか印象に残らないです。
やはり7曲目までがこのアルバムの聴きどころです。

それでは「ピュア・アコースティック」「プリッシマ」以外にも大貫妙子嬢のオススメアルバムを紹介します。

2枚組みベスト
「大貫妙子
ライブラリー」
正直言うと、大貫妙子を初めて聴く人にとっては、つい最近出た2枚組みのベスト盤「~ライブラリー」が親しみやすいかもしれません。

CMやドラマ、映画などで世間によく流れたタイアップ曲が優先的に選曲されてるからです。
新野新と西川のりおの関西ローカル深夜トーク番組「今夜なに色?」のオープニングに使用された「色彩都市」や、アメリカミュージカル映画のナンバーで同タイトルの日本映画主題歌にもなった「Shall weダンス?」も入ってます(車のCMや、芸能人ダンス選手権などで耳にした人も多いはず)。
レコード会社、レーベルの枠を超えて彼女の30年の歴史がわかります。
また、オリジナルアルバムには未収録だった曲も多いので、コアなファンにもうれしい2枚組み。

96年発売
ライブアルバム

「LIVE'93
Shooting star in the blue sky」
ライブアルバムとしては96年発売の「LIVE'93 Shooting star in the blue sky」が「ピュアアコースティック」とは対照的な、リズム楽器使いまくりのポップなアレンジが楽しいです。
1枚ものなので、コンサートの短縮版みたいな印象だけど、ボーナストラックとしてシュガーベイブ再結成コンサートから3曲が収録されてるのがマニアックなファンには気が利いてます。
特に「蜃気楼の街」が昔のままの演奏で今のター坊の声で聴けるのがたまらない魅力です。
キャリア30年以上の大ベテランの大貫妙子サン、親友のアッコちゃん(矢野顕子さん)よりも、知名度は低いけかもしれないけど、その世界は、音楽に”美しさ”を求める人は絶対に聴くべき素晴らしいものです。
石川セリさんや山本潤子さんのような、スーっとした清涼感のある女性ヴォーカルが好きな人もどうぞ、幻想的な美しささえ漂う大貫妙子ワールドへ足を踏み込んでください、ハマりますよ。

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追記)

今年、2007年3月にリリースされた妙子さんのニューアルバム「ブックル・ドレイユ」は、この「ピュアアコースティック」から20年めの、久々のリメイク・セルフカバーアルバムとなりました。

弦楽四重奏とピアノ、Wベースという演奏スタイルで、「ピュア・アコースティック」の続編というより、「ピュア・アコースティック」の完成形・最終形態とも言うべきもので、新録音9曲に「ピュア~」からも5曲(黒のクレール、横顔、Siena、新しいシャツ、突然の贈り物)が再収録されて、計14曲入りの"アコースティック集大成"という趣きです。

アサヒビール”贅沢日和”のCMソング「シェナンドー」(アメリカ民謡)も収録されるのと、NHKみんなの歌の「メトロポリタン美術館」や、芸能人ダンス選手権でもおなじみの「shall we ダンス?」などの明るめの曲もアコースティックかつ優雅にリメイクされており、人なつっこいアルバムとなってます。
新らしく録音された9曲と、旧録音の5曲とでは、正直、妙子さんの声に差がありますが、それでも、20年もの年月の隔たりがあるとは感じられません、むしろ声の変わらない人と言えるのではないでしょうか?

「ピュア・アコースティック」を買いそこなったみなさんも、ニューアルバム「ブックル・トレイユ」を買えば大満足できます。 
「ブックル・ドレイユ」のほうが”親しみやすさ”という点で「ピュア・アコースティック」より初心者受けしそうです。
また、2枚組みベスト「大貫妙子ライブラリー」と合わせて買えば、妙子さんの他のアルバムはいらないくらい代表曲は揃ってしまいます(ウソです、個人的には「蜃気楼の街」がどちらにも収録されてないなのが惜しい!シュガーベイブ「SONGS」か、「LIVE’93シューティングスター・イン・ザ・ブルースカイ」も買えばター坊ワールドは完成です・・・?)

    2007.3.21
追記書き換え


イタリアの地方都市の歌なのに東京の下町、
ミスマッチ感を楽しんでください。