懐かシネマ劇場第5回 
新・男はつらいよ
シリーズ第4作 
昭和45年 松竹映画 カラー、シネマスコープ作品
小林俊一監督 
出演:渥美清、賠償千恵子、森川信、三崎千恵子、前田吟、笠智衆、栗原小巻
   

みなさん、「男はつらいよ」シリーズって全部、山田洋次監督が作ってると思ってるでしょ?

実は全48作の中で山田洋次が監督ではない作品が2作品あるってことを知ったとき、僕もちょっとだけびっくりしました。

山田洋次監督でない2作品のひとつは森崎東(あずま)監督の第3作「男はつらいよ・フーテンの寅」で、もうひとつが今回このコーナーで取り上げる小林俊一監督の第4作「新・男はつらいよ」です。

小林俊一監督は、すでにテレビ版「男はつらいよ」でも監督やってた人なので、山田洋次監督の作品と比べても決して見劣りしませんし、俳優さんの芝居の見せ方は山田監督とはちょっと違う別のこだわりが感じられます。

今回、僕が数ある寅さんシリーズから、なぜこの作品を選んだかというと、おいちゃん役の森川信さんにとっての最高傑作だから、というのが理由です。

とにかく森川信さんが魅力全開で、この作品に関していえば、渥美“寅さん”を森川“おいちゃん”が上回ってるくらいです。

それはきっと、山田監督に代わってこの作品を演出することになった小林監督の“狙い”だったと思われます。

小林監督は森川信さんの芸風、芝居が大好きだったにちがいありません。そう思わすほど、この作品では森川さんの芝居の見せ所がたくさん用意されてるのです。

特に、寅さん相手に「婦系図」の物語を語って聞かせるシーンは、この映画の最大の見せ場となってる名場面です。

しかし、森川“おいちゃん”が活躍するかわりに、賠償“さくら”さんがドラマの本筋に少ししか関わらないのあたりが、やはり兄妹愛が基本にある山田洋次監督作品とは作風が違うなって思わせます。

冒頭、どこかわからない田舎の場面やチラっと羽田空港の場面はあるものの、お話がほとんど葛飾柴又周辺のみの”テレビドラマ的空間”で展開されるところは、このシリーズに“旅情”を期待するファンにとってはちょっと物足りないかもしれません。
その意味では初期寅さんシリーズの中では“小品”の印象で、寅さんの活躍がほとんど旅先だった森崎東監督の第3作と好対照という感じです。

この作品のマドンナは栗原小巻さんで、父親に捨てられた悲しい生い立ちを隠して気丈に生きる幼稚園の先生役を好演してます。

寅さんのお父さんの命日に、“へそくり”をめぐって喧嘩するおいちゃん、おばちゃんを見て笑う小巻さん。、
しかし、笑ってるうちにも、だんだんと父の臨終に立ち会わなかったことの後悔が沸きあがってきて、、笑い顔からしだいに泣き顔に変わるという、むずかしい演技を見事に演じきってます。

またポッテリした温厚な顔立ちが魅力の三島雅夫さんが小巻さんの父親の親友の医者役で出演してるのも、この作品ならでは魅力です。

森川信さんと三島雅夫さんの魅力で見れるので、おじさん好きの人にはシリーズ中この作品が一押しです。

ただ初期の寅さん映画としては比較的、寅さんの失恋自体がアッサリ描かれてるような気もしますが、寝てるおいちゃんおばちゃんに心境を語るシーン(本当はおいちゃんもおばちゃんも寝たふりをしてるだけで、しっかり寅さんの話を聞いてる)など、思わずホロっときます。

 森川信さんの、あの温厚な魅力溢れる笑顔が見れるのは池内淳子さんがマドンナの第8作「寅次郎恋歌」までで、その後は松村達雄さん、下条正巳さんへと”おいちゃん”は引き継がれていくわけだけど、せめて浅丘ルリ子さんの「寅次郎忘れな草」までは森川さんの“おいちゃん”で見たかったと思います。
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