懐かシネマ劇場第6回 
気分を出してもう一度
VOULEZ-VOUS DANSER AVEC MOI?
1959年 カラー作品
ミシェル・ボワロン監督 フランス映画

出演:ブリジット・バルドー、アンリ・ヴィダル
ドーン・アダムス、セルジュ・ゲンズブール、ダリル・モレノ
          
 
 「もし、女に生まれ変われるならば、オードリー・ヘプバーンかマリリン・モンロー、どちらがいい?」と聞かれ場合、みなさんはどう答えますか?
 
僕の答えはどちらでもない、オードリーとマリリンの両方の魅力を兼ねそなえたB.B(べべ=ブリジット・バルドー)こそ”生まれ変わりたい女”だと答えます。

スマートなのに豊かな胸、どんなファッションも似合う体型で、男をひきつける天性の魅力に恵まれてるので、女のしたたかさを発揮するまでもなく、自由気ままに、やりたい放題の生き方が出来そうだからです。
こういう人に生まれたら、さどかし人生は楽しいでしょう。

実際、この映画の中でも夫役のアンリ・ヴィダルに抱かれながら「ああ、人生って、なんて楽しいの」っていうセリフがあり、すごく実感がこもってる感じがします。

僕がこの映画を見たのはテレビの洋画劇場で、1970年代前半の中学生の時でした。
BBの声は、後に「タイムボカン」シリーズのマージョ様やドロンジョ様、はたまた「ドラえもん」で、のび太の声を吹き替える小原乃梨子さんだったのですが、まさにピッタリでした。

当時、バルドーはまだ現役で、この映画のテレビ放映の少し前に、映画館では最新作「ラムの大通り」(’71年、ロベール・アンリコ監督)が公開されていました。
僕は”ブリジット・バルドー”って、名前こそ知ってたけど全然興味あるわけなく、共演の男っぽい中年俳優リノ・ヴァンチュラ目当てに映画館へ行きました。
(テレビでリノ主演の「女王陛下のダイナマイト」を見てファンになってたからです)。
 
その「ラムの〜」はヴァンチュラの純情ぶりが可愛く、BBはちょっと冷たいのだけど、なんとなくブスだけど可愛らしくスタイルのいいオシャレな女優というイメージで好感を持ちました(本当はブスではなくじゅうぶん美人で、特に若い頃の美しさは輝くほど)。


実はこの「気分を出してもう一度」は思春期の僕にとっては、とても重要な意味を持つ映画なのです。
それは、はじめて見た”同性愛”を扱った映画だったからです。

この映画では、BBが夫の無実をはらすため、自ら女探偵となってゲイ・キャバレーに潜入する場面があります。
そのキャバレー(ショー・パブって感じ)の花形歌手が容疑者のひとりなんだけど、BBが楽屋を訪ねていくと、金粉を体に塗ったマッチョなヒゲおじさんや、胸毛をブラシでとかしてるにいちゃん(今回DVDで見直したら非タイプでゲンナリ)がいて、まだゲイとしての行動をなにひとつおこしてなかった中学生の僕には興味しんしんでした。

BBが囮捜査として通うダンス教室にも、男子シャワー室を覗ける窓があったり、映画全体が”同性愛”を裏テーマにしてるのです(表テーマはもちろん、BBのチャーミングさを見せること)。

この作品以前に「この神聖なお転婆娘」(’55)や「殿方ご免遊ばせ」(’57)でBBの魅力を最大限に引き出した名匠ミシェル・ボワロン監督(代表作としては他に58年のアラン・ドロン主演の「お嬢さんお手柔らかに」など)ご本人も、実は同性愛者であったのかも知れません。

女の色気を引き出すのを得意としたボワロン監督だったようだけど、少なくとも僕は、バイセクシャルの人ではなかったのではないだろうか?と思えます。

それというのも、ボワロン監督はBBに次のようなセリフを言わせてるからです。
「男の人って、女の裸に夢中ね、でも私は男の人の体のほうが美しいと思うわ」

そして、ヴィダルの逞しい胸をさわりながら
「あなたのこの体はすべて私のものなのね」という至福の言葉に続き、
「あなたなら男のストリップのスターになれるわ」・・・・・そして、ヴィダルにしっかり抱きしめられたときに前述のセリフ「ああ、人生って、何て楽しいの」へと繋がります。

残念なことに、この作品の直後、アンリ・ヴィダルは心不全で他界します。
40歳の若さで、タフガイタイプの二枚目俳優としてはこれからますます渋みが出るであろう事を思うと惜しい存在です。
                      
          
この後、BBはアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の「真実」(’60)、ルイ・マル監督の「私生活」(’62)ジャン・リュック・ゴダール監督の「軽蔑」(’63)など、巨匠やヌーベルバーグ系の作品に出演し、確実に女優としての階段を昇りつめてゆきます。

でも、彼女の持つ無邪気で明るく溌剌とした魅力は、この「気分を出してもう一度」をピークに徐々に失われていくような気がします。

自由奔放な女性像を映画の中のみならず実生活でも体現したBB、われわれ男性同性愛者からはもっとも遠い存在であるはずなのに、なぜ、彼女の映画は楽しいのでしょう?

それはきっと、”モラルへの反発””何者にも縛られない自由さ”がバルドー映画では表現されてるからに違いないです。
ある意味、松田聖子ちゃんを支持するホモの人が多いのと同じで(?)、BBは羨ましさを通り越して”夢”の領域に達した存在なのかも知れません。

それにしても、当時の外国映画の邦題って、なんて洒落てるのでしょう。
この映画の原題は直訳すると「わたしと踊らない?」だそうだけど、「気分を出してもう一度」のほうが断然、洒落てますよね。

バルドー映画では他に、フランス語原題”ひなぎくを摘め”が「裸で御免なさい」・・・・”あるパリ娘”が「殿方ご免遊ばせ」・・・というふうにイマジネーション豊かな日本語タイトルになるのだけど、このセンスって、最高ですね。
お名前は存じ上げないけど、これらのタイトルを考えた当時の配給会社の宣伝部の人は天才です。

それにくらべて、今の外国映画の邦題って、原題をそのままカタカナにしただけで味気ないですね。

この映画には、60年代後半以降に俳優兼ミュージシャンとして才能を発揮するセルジュ・ゲンズブールがチョイ役で出てますが、若すぎて別人のようです。
歳とっても決して渋くはなかったけど、若いころはなおさら変な顔で、こんな変な顔の人がBBやジェーン・バーキンと浮名を流したんだから、女性はやっぱり、男の顔じゃなくて才能に惚れるのかも知れません。

なお、今出てるこの作品のDVDは日本語音声がついてなく、しかも字幕がテレビ放映時の小原乃梨子さんの台詞とちがってて違和感がありました。
バルドーの声を小原乃梨子さんが吹き替えた日本語音声を選択できるDVDも出してくれないかな?と思っている今日このごろです。
追記
ダンス教室のインストラクター役で、BBとマンボを踊っている小柄なトルコ系太っちょおじさんはダリオ・モレノ。
ゲンズブール同様、俳優兼ミュージシャンのマルチタレントです(ダリオさんは’68年に早逝されましたが”ダリオ・モレノ賞”という賞が創設されるくらいの才能ある偉大な人だったようです)。
日本では丸山明宏(現:美輪明宏)さんの歌でヒットした「メケメケ」は、このダリオさんのヒット曲のカヴァーでした。
BBとは同年の「私の体に悪魔がいる」('59)でも共演。

        
   
        ポスター   フランス版        日本版          
             
オマケ:バルドー映画・日本版ポスターコレクション
       
「この神聖なお転婆娘」(’55)はミシェル・ボワロン監督との初コンビ作で、BBの無邪気な魅力が爆発してます。この後「殿方ご免遊ばせ」(’57)を経て「気分を出してもう一度」はコンビ3作目。
ボワロン作品でのBBは一貫して天真爛漫なお転婆娘として描かれてます。

左は世界中にセンセーションを巻き起こした当時の夫、ロジェ・バディム監督の出世作でもある「素直な悪女」(’56) 、この映画でのBBは渋いおじさまユルゲンス、頼りない気弱青年トランティニァン、そのいかつい二枚目兄貴クリスチャン・マルカンと、3人の男を翻弄する、本能に忠実な自然児。

天衣無縫という意味では、バデイム作品でもボワロン作品でも共通するキャラクターとも言えます。
           
 
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