懐かし歌謡劇場    あの人この歌 

ヘイヘイブギー 笠置シヅ子
作詞:藤浦洸 作曲:服部良一  昭和23

この「ヘイヘイブギ」は戦後の混乱期の人々を勇気づけた底抜けに明るい歌です。
“ブギの女王”笠置シヅ子さんのブギウギシリーズの中でも、痛快さとブッ飛び感ではズバ抜けてます。

作曲者の服部良一さんにとっても、明るいポップな歌としての最高傑作ではなかろうかと思うのです。

 わたしタロスケの座右の銘は、この歌の歌詞にある「笑うかどにはラッキーカムカム」なのです。

悲しい時もクヨクヨせず、なるべく楽観的に明るく振舞ったほうが“運”を呼ぶってことで、常日頃から心がけてるのです。

しかし、現実問題としては、心と逆の態度をとるのは、ミジメさがよけいに身にしみてしまいますよね。

そんな時は、思いきり能天気なこの歌を聴いて、気分を切り替えてみてください。
淋しさを吹き飛ばすにの、この歌が最も即効性のあるビタミン剤となるでしょう。

日本中の庶民にバイタリティーを与えた笠置さんのブギウギシリーズで一番有名なのは、言うまでもなく「東京ブギウギ」にちがいありません。

そして次に有名なのは“わてほんまによいわんわ”の「買物ブギ」で、ブギウギシリーズ最高傑作の呼び声も高い名曲です。

そして、3番目に有名なのは黒澤映画「酔いどれ天使」で歌われた「ジャングルブギ」ではないかと思います(平成になって
東京スカパラダイスオーケストラがカバーしたことで,若い音楽ファンにも少し知名度が上ったと思われます)。

 ということで、僕が一番好きな「ヘイヘイブギ」は”笠置ブギ”としては4番手ということになり、世間的な認知度はちょっとだけ落ちます。

この曲の作詞は服部さんの盟友、藤浦洸(ふじうらこう)さんだけど“ラッキーカムカム”の部分は服部さんのアイデアで、本職の作詞家だと、こういうノリのいい言葉は思いつかないそうです。

 作詞家としてのペンネーム“村雨まさを”でも「ワンエン・ソング」「買物ブギ」などユニークな傑作を書いてる服部さんならではの言語感覚が発揮されてるのです。(服部さんの作品リストで“村雨まさを作詞/服部良一作曲”となってるのは“作詞/作曲:服部良一”ということになります)
このさい、英語として正しいかどうかどうでもよくて、ノリのよさで押し切ってしまう豪快さがたまらないです!

“東京ブギウギ”は映画「春の饗宴」(昭和22年)、“買物ブギ”も「ペコちゃんとデン助」(25年)で歌うシーンがあり、「酔いどれ天使」(23年)の“ジャングルブギ”と合わせてNHKの伝記番組「痛快!人間伝」で見ることができました。
このヘイヘイブギも「舞台は廻る」(昭和23年大映)という映画で笠置さんがバックダンサーをしたがえて歌い踊るレビューシーンがあるそうなので、ぜひ見てみたいものです(未確認ですが、昭和23年の狸御殿ミュージカル「春爛漫狸祭」でも歌うシーンがあるらしい)。

 ところで、昭和56年にデビューしたソウルフルな5人組ポップグループ、スターダスト・レビューのデビュー曲「シュガーはお年頃」は、まさに「ヘイヘイブギ」の現代リメイクと言うべきか、トリビュート作品と捉えるべきでしょう、この「シュガーはお年頃」も大好きな曲です。

スタ・レビが「銀座カンカン娘」や「東京ブギ」をステージで頻繁に歌ってることを考えると、「シュガー〜」は彼らにとっての「ヘイヘイブギ」なんでしょう。

幼い頃の美空ひばりさんが笠置さんのモノマネで世に出たのはよく知られてますね。
まだレコードデビュー前で“持ち歌”のなかったひばりさんが、日劇のステージに1曲だけ特別出演するというショーの初日の出来事、有名な話なので、知ってる人いるかもしれません。

そのショーでひばりさんが歌うはずだったのがこの「ヘイヘイブギ」だったのですが、本番直前、笠置さんからの「この曲は歌わないで」という通達が日劇の楽屋に届きます。
 あわてたひばりさん親子と日劇のスタッフは曲目を急きょ「ヘイヘイブギ」から「東京ブギ」に差し換えるんだけど、結果、ひばりさんは歌いだしの「トオッキョ」の部分を失敗してしまい、楽屋に帰ってから泣きじゃくるのです。

この事件は、
ひばりさんの伝記ドラマ(岸本加代子主演)にも描かれてたし、当時11歳かそこらだったひばりさんのプロ意識を示すエピソードとして語り草となってます。

こんなふうに、いつも“美空ひばり物語”の“悪役”として笠置さんは描かれるわけですが、実際のところ、どうなんでしょうか・・・・?

宝塚歌劇出身の順みつきさんが笠置さんを演じたNHK連続ドラマ「わが歌ブギウギ」(昭和61年放送)では、笠置さんが新曲として「ヘイヘイブギ」を出すと時に、ひばりさんのデビュー曲も「ヘイヘイブギ」にして“本家”と“ミニ笠置”(ひばりさんのこと)の競作にするというアイデアをディレクターから聞かされた
笠置さん(順みつきさん)が猛反対する場面がありました。


これが事実に基づいた話なら、僕は笠置さんのほうに同情します。
だって、“子供と動物には勝てない”って言うでしょ、世間の評価は好奇心も手伝って、ひばりさんに集中するのは”火を見るより明らか”です。これは笠置さんにとっては残酷すぎる。

たしかに、笠置さんにとってひばりさんは自分の存在を脅かす脅威だったのでしょう。
 その後、ひばりさんは「河童ブギウギ」(浅井挙嘩作曲)でデビューしますが、ハッキリ言って「ヘイヘイブギ」には遠くおよばない曲です。
(ひばりさんはデビュー曲より、すぐ後の万城目正作曲「悲しき口笛」「東京キッド」の2曲が素晴らしい名曲だと思います。)

 ひばりさんも服部良一さんの作曲で「銀ブラ娘」という曲を昭和26年に出してますが、ひばりさんの曲としても服部さんの曲としても、いまいちピンとこない中途半端な曲です。
おそらく、服部さんとしても笠置シヅ子さんに書いてるタイプのブギを、そのままひばりさんに書くわけにもいかずに、曲づくりに苦労した後が、「銀ブラ娘」からは滲み出ています。

なお、笠置さんは昭和32年頃に、「シズ子」から「シヅ子」へと改名されたので、両方とも正しい表記なのです。

笠置さんをより詳しく知りたい方は、砂古田早苗さんによる評伝本「ブギの女王・笠置シヅ子〜心ズキズキワクワクああしんど」(出版社:現代書館)を読んでください。

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