懐かシネマ劇場第2回 
ギターを持った渡り鳥
斉藤武市監督 日活映画 昭和34年 カラー作品
出演:小林旭、浅丘ルリ子、宍戸錠、白木マリ、金子信雄、二本柳寛

私としましては、生まれたころの作品なので、リアルタイムで見てるわけでなく、後にテレビで放送されたのを見ました。
 たしか小学校6年生の時だったと思います。テレビをつけると偶然、美しい山(後に駒ヶ岳と判明)がテレビ画面に映り、牧草を積んだ荷馬車からむっくり起き上がった皮ジャン青年の♪赤い〜夕陽よ〜 燃え〜落〜ちて〜♪という歌声が流れてきて、なにか吸い込まれるように一気に最後まで見てしまいました。
 今思うと、最初に見たのがシリーズ中の第1作だったのが良かったと思えます。

 後の高倉健さん映画やブルース・リー映画同様、男の子の中の“ヒーロー願望”をくすぐる映画です。
おそらく、この渡り鳥シリーズを多感な十代の頃に映画館で見た世代(団塊世代とそれ以上)にとってはたまらない魅力のある、青春の映画だと思います。
 
 シリーズ映画って、回を重ねるにしたがって様式美が確立してゆき、スタッフや俳優さん同士の呼吸も合ってきて、成熟してゆく傾向があります。
「男はつらいよ」シリーズや「緋牡丹博徒」シリーズも、2作目以降に最高傑作とされる作品があるようだし、この渡り鳥シリーズも第5作の「大草原の渡り鳥」が最高作と位置づけされてるようです。

たしかに第5作「大草原〜」は割り切った和製西部劇としての楽しさがあったけど、僕にはやっぱり、微妙に地味な、この第1作が一番好きです。
なぜかっていうと、この第1作においては、主人公がまだじゅうぶん青年らしいナイーブさを持ってるからです。
ヒーローの、ちょっと間抜けな人間くさい一面も描かれてる、ということに加え、敵・味方が最初からハッキリわかれた後の作品とちがい、ヒロインは父の悪業を知らない微妙な立場で、最初のうちはお金持ちのお嬢様特有のわがままな面も描かれることが人間ドラマとしての深みがあり、そのあたりが2作目以降との決定的な違いです。
 
そして、ヒロインとヒーローが対等の立場で、若者どうしの会話を交わすのも、この第1作だけの楽しさで、どこか、後の吉永小百合と浜田光夫の青春映画に通じる一面もあるのです。
個人的には、2作目以降の渡り鳥は“ヒーロー映画”で、この第1作のみが“青春映画”って思えるのです。
強いて呼ぶなら“青春旅情アクション”と名づけたいです。

 若い二人がロープウェイに乗ってやってきた函館山の展望台。
アキラに恋人がいると思ってスネるルリ子、ところが恋人は2年前に死んだ事を告げられると素直に謝るルリ子
「ごめんなさい、悲しいこと思い出させてしまって・・」
「思い出すってのは忘れてるからだろ?俺は忘れた事はない、だから思い出すこともないさ」
・・・全編、名場面・名セリフの連続です。

 函館港の倉庫街にある七財橋、転んで風船を離してしまい泣き出す坊やをなぐさめるアキラ、橋のたもとの店で風船を買って坊やに渡そうとするけど、元の場所に戻った時には坊やはいなくて、母親に連れられて去って行く遠い後姿を見て、寂しい表情を見せるヒーロー。
 
仲間をアキラに殺されたと思い、アキラを付け狙う殺し屋の宍戸錠さんも、後のユーモアあふれる愛すべきライバルではなく、マジで凄みをきかせたライバルとして登場します。
 
ジョーとアキラの、後の作品のようなコミカルな会話のやりとりはこの第1作ではまだないけど、逆に張り詰めた緊張感がたまらなくいいのです。
 
この第1作ではガンアクションも最小限で、主人公は必要最小限でしか引き金を引かないし、馬にも乗ってない(冒頭、馬の引く荷車に乗ってやってくるけど)ファッションも後の奇抜な西部劇スタイルではなく、じゅうぶん普通です。
 
また、シリーズ中、ヒロインの心の成長が描かれる唯一の作品でもあり、ラストのルリ子さんの目の表情とセリフがいいです(その名セリフは映画を見てね)。
 恋心を断ち切って旅に出るヒーロー・・・・・・自分の人生と重ねられる部分がこの映画にはたくさんあるのです。
 文芸大作より、プログラムピクチァーと呼ばれる娯楽映画のほうが、人の心を揺さぶる場合がある、ということを実感する作品のひとつです。
 
西沢爽作詞、柏林正一作曲による同名主題歌は小林旭さんの代表曲として、レコード会社を移籍するたび何度もレコーディングされ、いくつものバージョンが今も買えますが、お奨めは「マイトガイ・トラックスVol.1」に収録されてる映画サウンドトラック・バージョンです。
 このサウンドトラックバージョンは、小杉太一郎さんによる編曲が素晴らしく、思いきり情景を彷彿とさせます。
 渡り鳥シリーズが素晴らしいのは、大自然の雄大さやヒロインの慕情をあますことなく表現した小杉さんの抒情あふれる音楽が全編を彩っていたことも大きいと思います。
 それと名カメラマン高村倉太郎さんのカメラが函館の港町風情を余すところなく伝えており、あふれる旅情をを堪能させてくれます。。
小杉さんと高村さんの起用が、この映画を名作たらしめたと言えます。

「居酒屋兆治」「キッチン」「男はつらいよ寅次郎相合傘」他、函館を舞台にした映画は名作揃いだけど、僕にとって、函館の街はこの映画のイメージなんです。

(追記)主人公の刑事時代の元上司の役で、渋い魅力の二本柳寛さんが出演してるので、二本柳さんを知らない若い世代の人もレンタルビデオなどで是非、この作品を御覧になってください。

(追記その2)肝心なこと忘れてました。悪役の貫禄で老けて見える36歳の金子信雄さんも魅力です。
当時、金子さん手製のサンドイッチは共演者やスタッフの間で大好評だったと、宍戸錠さんの著書(じゃなかったかも)で読んだことあります。

07'5.23(追記&改訂)
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