懐かシネマ劇場第4回 
ゴジラの逆襲
昭和30年 東宝映画 白黒スタンダード作品
小田基義監督 円谷英二特技監督
出演:小泉博、千秋実、若山セツ子、志村喬

日本映画に新しいジャンルを築き上げた歴史的名作「ゴジラ」(昭和29年11月公開)のわずか5ヵ月後に公開されたゴジラ登場第2作。初めての“怪獣対決”が描かれた作品です。

僕はつねづねゴジラに関しては最初の4本(白黒スタンダードの「ゴジラ」「ゴジラの逆襲」とカラーシネスコの「キングコング対ゴジラ」「モスラ対ゴジラ」)こそが真の“ゴジラ映画”だと思っています。特に前期白黒2作品に個人的な強い思い入れがあります。

しかしながら、このゴジラ第2作、田中友幸プロデューサー自らが「あわてて作りすぎた」と失敗作を認める発言もあり、世間的にもあまり評価が高いとは言えません。

僕はこの映画は小学校低学年の頃にテレビでプロ野球の雨傘番組として放映されたのを見たのが最初です。当時は「ウルトラQ」が放映中だったんだけど、「やっぱり劇場映画の怪獣は迫力が違う」と圧倒されて、ますます怪獣好きな子供になってしまった思い出深い作品です。

その後、ナマイキ盛りにある程度の情報を得て再見したとき、いろいろと映画としてのアラが見えてきたのだけど、それでもやっぱり、この2本目ゴジラは大好きなのです。

監督は「獣人雪男」の準備に入った本多猪四郎に代わって、前年12月公開の「透明人間」(「ゴジラ」のすぐ後に急造された小品で河津清三郎が透明人間を演じた)で円谷特技監督とのコンビ作も経験ずみの小田基義監督。
人情コメディやサラリーマンものが得意で”早撮り”の名人、あらゆるジャンルをこなす器用な監督として重宝がられた人です。

音楽は第1作の伊福部昭に代わって当時の新進作曲家の佐藤勝が担当、後に佐藤さんは黒澤明監督のお気に入りとなり、日本映画を代表する作曲家となります。

しかし、特撮映画ファンにとって、本多さんと伊福部さんを欠いてはベストスタッフとは言えず、それが”名作”の名を与えられなかった最大の理由と思われます。

とは言え、小田監督もある程度は“本多猪四郎タッチ”の演出を踏襲していて、物語の中盤のゴジラ大阪上陸前の演出はなかなかの雰囲気でした。、

大阪市に警戒体制が敷かれて、灯火管制の夜の街にジェット戦闘機の飛行音だけが鳴り響き,怪獣出現への期待でワクワクします。このあたりは本多監督にも負けてなるものかっていう小田監督の意気込みが感じられます。

しかし、全体としてはゴジラ第1作や、翌年の「空の大怪獣ラドン」(昭和31年)などの本多作品と比べると防衛隊の描写にしても怪獣に怯える一般庶民のリアクションにしても、少しアッサリしすぎた印象です。

本多作品にでは必ず挿入される博士や防衛隊長官の周りに新聞記者がドっと群がるカットや、事件を報道する新聞が印刷されるカットがないせいもあるけど、緊迫感やスケール感が薄いのです。
やっぱりキビキビした本多監督のタッチが、怪獣の存在する世界の空気を感じさせてくれるんだな、本多さんの良さを再認識します。
 
 本多作品では端役の俳優さんの何気ないセリフからも怪物の存在感や事件の重大さが浮き上がってくるような演出があるのですが、小田基義監督の演出は、限られた範囲の人物のリアクションしか描かれてません(その意味では同時代の外国製モンスター映画のようなつくりとも言えます)。
この作品では、ほとんど水産加工会社と、その従業員(魚群探査機パイロット)の周辺だけの人間関係で物語りは進みます。


しかも“事件”のレベルは台風程度の印象で、大阪の工場が壊されて本社事務所が北海道へ移転したら“ゴジラの脅威”はどこへやらで、楽しそうな宴会シーンが延々と繰り広げられるのです。
千秋実さんが“花婿さん”というニックネームで呼ばれたりするところは東宝名物のサラリーマン映画みたいで、別の意味で楽しいですが・・。

 ゴジラの初出現も唐突で、本来ならもっと怖い演出ができたはずなのに、特撮と人間側の芝居の絡みがいまひとつであまり怖くないのが残念です。

後に出版されたゴジラ関連本にこの作品の脚本と絵コンテが掲載されてたのですが、それによると小泉博さん演じる主人公がゴジラを発見するくだりで、岩の裂け目に逃げ込んだ小泉さんと千秋実さんを巨大な手で掴みだそうと迫ってくるゴジラから間一髪で助かるシークエンスがあり、そこが一番エキサイティングなところなのに、完成作品はその部分が映像化されてなく残念に思いました。
もし脚本・絵コンテどおりに映像化されてたら凄く怖い怪獣映画になったはずです。

 タイトルバックはじめ、劇中で何度も出てくるテーマ音楽は勇ましくてカッコよくて大好きだし、劇中、ダンスホールのステージで星野みよ子さんの歌うムーディーな歌(未レコード化曲?)も素敵なのだけど、、映画全体のBGM(劇伴)としては、佐藤さんの音楽は伊福部さんにくらべあっさりしすぎです。
怪獣の怖さ、巨大さの表現にあきらかに作曲家としての表現力に差があります。

 そんな弱点の少なくない作品であるにもかかわらず、僕がこの作品を愛するのは怪獣対怪獣の格闘シーンが他に例がないくらい素晴らしいからです。

 この作品での、ゴジラとアンギラスの決闘シーンを見て「”ジュラシックパークⅢ”のチラノサウルスとスピノサウルスの決闘シーンより迫力ある」と雑誌に書いた人がいるけど、僕もまったく同感です。
「キングコング対ゴジラ」以降の擬人化された怪獣プロレスではなく、まさに原始的な、生き物としての生存競争を賭けた戦い。

 ゴジラ、アンギラスの中に入った中島春男さん、手塚克己さん両氏による徹底的に人間っぽさを排除した動物演技は“闘犬”を参考にしたという記述を何かの本で読んだけど、それだけじゃない、爬虫類としての属性さえ感じさせる、凄い演技をしてます。

 コマ落としとハイスピード撮影を巧みなカット割りで編集された野性味あふれる両怪獣の動き、しかもその後の怪獣映画史上でもあまり例のない大都会の街中での対決。

 コマ落としを多用しすぎて滑稽に見える部分もあるけど、こんなに野生味あふれるゴジラは他にありません。
カン高いアンギラスの断末魔が超音波となって大阪城にヒビが入る演出も見事だし、二大怪獣が踏み潰した地下鉄・淀屋橋駅の構内に堂島川の水が洪水となって流れ込み、どさくさにまぎれて逃げ込んだ脱走囚を飲み込んでしまうシーンも圧巻でした。

 個人的に怪獣対決シーンのベスト4は、1位がこのゴジラとアンギラスの大阪決戦で、2位が昭和39年「モスラ対ゴジラ」の成虫モスラとゴジラの対決、3位と4位は「三大怪獣地球最大の決戦」のゴジラ対ラドンのちょっとユーモラスなバトルと、「フランケンシュタイン対地底怪獣」のフランケン対バラゴンの決闘(バラゴンの動きが素晴らしい)です(異論はあると思いますが)。
でもやっぱりこのゴジラ対アンギラスのバトルはそれらの中でも飛びぬけて素晴らしい、ダントツのナンバーワンです。

 また、ゴジラは作品ごとに顔立ちや微妙なデザインが変わるのだけど、この作品のゴジラは顔立ちも凶暴さが際立っており、初代ゴジラの次くらいに好きな造形です(個人的には対キングコング、対モスラの時のゴジラより好き)。スチール写真で見ると造りが粗いですが、映画の中ではカッコいい!アンギラスも「怪獣総進撃」(昭和43年)で復活したものより凶悪でカッコいいです。

 小田基義監督の持ち味は前年の「透明人間」でもそうだったように、どこかほのぼのした心あたたまる人情味があり、本多作品とはまたちがった味わいがあるので、そこを素直に楽しみましょう。

千秋実さんのキャラクターは前年の「七人の侍」で演じた役柄と通じる開放的な好人物で、怪獣映画という虚構の世界だからこそ、こういう人間味あふれる人物が描かれることがリアリティーに繋がるとも思えます。

巨大怪獣ものとしては日本で2本目の作品「ゴジラの逆襲」は、監督が本多さんじゃないけど、音楽が伊福部さんじゃないけど、僕にとっては第1作「ゴジラ」や「空の大怪獣ラドン」にも匹敵する怪獣映画の黎明期の名作なのです。

                       
(付記:映像化されなかった幻のシーン=赤字部分
遭難した小林(千秋実)を助けるため、月岡(小泉博)も水上フロート付きセスナで岩戸島に不時着、そこで岩陰からヌっと顔を出したゴジラと目があってしまう二人(怖ッワ~!)、岩の間の隙間に逃げ込むが、二人を掴みだそうと巨大なゴジラの手が眼前に迫る・・・・いよいよ最後だと観念した月岡は、最後の一服としてポケットからタバコを取り出し火をつける、その時、ゴジラの背後から、ゴジラとは別の巨大な生物の咆哮が聞こえ、その咆哮の主へと闘争心を転化させたゴジラは、二人のことなど忘れて、新たな敵アンギラスとの闘争を始まる・・・その隙に小林と月岡はセスナに乗り込み脱出する・・・・と、いうものでした。
実際の完成作ではゴジラは二人の存在を意に介さずアンギラスとのバトルがすでにはじまっている。
完成作品本編で、ヒロインの若山セツ子さんと恋人である小泉博さんの会話・・・・「小林さん、あなたのこと、すごい勇気だと言ってたわ」「あれは勇気なんてもんじゃないよ、一種のあきらめかな」というセリフのやりとりは、実は”絶体絶命のときのタバコ”の件を語っているわけで、完成作の画面には出てこなかった脚本&絵コンテの名残りなのです。
また、東宝怪獣映画名物の、事件を報道する新聞のカットはゴジラ上陸前に一箇所あります。
この作品は第1作の演出を踏襲してる部分と小田監督ならではの”小市民”的なホームドラマっぽい味付けのミスマッチが楽しいと思います。
 
追記:この作品のアメリカでの初公開時タイトルは「Gigantis the Fire Monster」。
 なんとゴジラは「ジャイガンティスという名前にされてしまいました。
 理由は、アメリカでの配給会社が第1作と異なったためで、権利問題から「Godzilla」という名前が使えなかったからだそうです。
 その後だいぶ経ってから「Godzilla Raids Again」と改題され、ジャイガンティスはゴジラ(ガッズィーラ)と本名(?)に戻されました。
 
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